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Ringo star レビュー

プレイボタンを押した瞬間に飛び込んでくる、 りんごのようなほんのり甘酸っぱいアコースティックギターのフレーズ。 そこに搾りたての果汁を思わせる4人のフレッシュなハーモニーが重なり、 切なさを後押しする爽やかなエレクトロサウンドがスピードを上げる――

これが、青森県弘前市が全国に誇る活動歴17年の〝農業活性化アイドル〟、 りんご娘のニューシングル「Ringo star」のイントロを彩る音の風景だ。 ローカルアイドルのトップランナーが、 通算16作目、しかも現メンバーでの初録音作品であり、 過去最強の制作陣によって書かれた2枚目の全国発売シングルで手にしたのは、 彼女たちのピュアな魅力をギュッと凝縮したグループ史上最高の楽曲だった。

けれど「Ringo star」について話を進める前に、 少しだけ、いや、大事な話でもあるのでちょっぴりじっくりと、 ここに至るまでのストーリーを振り返ってみたい。

りんご娘は、ローカルアイドルの先駆として知られる新潟のNegiccoに先がけること3年、 アクターズスクール広島で結成されたPerfume(当時の表記は“ぱふゅ~む”)と同じ2000年に誕生した。 2005年には〝早すぎた渋谷系リヴァイバル〟とも言える1枚目の全国発売シングル「彼の軽トラに乗って」をリリースしたり、 2011年には「さんまのスーパーからくりTV」の替え歌コーナーでお茶の間での知名度を高めた瞬間もあった。 けれど彼女たちはPerfumeやNegiccoとは違い、あえてそこから芸能界や音楽産業の中枢に進もうとはしなかった。 理由は明白だ。そしてその理由こそが、 数千とも、1万以上とも言われるグループが鎬を削る〝アイドル戦国時代〟を経た今のアイドルシーンにおいて、 もっと言えば過激化するサービスが秩序を壊しにかかる〝何でアリ〟なJ-POP≒アイドル産業の中で、 作りモノではない本物のピュアさでもってりんご娘を特別な存在にしている理由でもある。

りんご娘を生んだ弘前アクターズスクールは2000年7月、4人のボランティアスタッフでスタートした。 2005年にはりんご娘の所属事務所「リンゴミュージック」が設立される。

「非営利で地域活性化を目指す」

事務所の代表であり、りんご娘のプロデューサーでもある樋川新一によるこの強い哲学こそが、 群雄割拠のシーンを正面突破してみせるりんご娘の原動力なのだ。

話を「Ringo star」に戻そう。

「Ringo star」の全国リリースは、 2016年に全国242組のアイドルが歌とダンスを競い合った「愛踊祭~あいどるまつり~2016」に、 りんご娘が2回目の挑戦で優勝したことがきっかけだった。

2015年以降変わらないりんご娘の現メンバーは 加入順に「とき」、「王林」、同期の「ジョナゴールド」と「彩香」。 ときと王林は今年で19歳、ジョナゴールドと彩香はまだ15~16歳とややあどけなさが残る年代だが なんと彼女たち、平均身長が約170cm。 つまり、津軽の大地で真っ直ぐに生まれ育った内面の〝純朴さ〟と、 モデル並みのスタイルや徹底的に鍛えられた高水準な歌とダンスパフォーマンスとのギャップが最大の武器となり、 「愛踊祭」では審査員ばかりかオーディエンスまで魅了。 優勝だけでなく、会場とウェブの投票で決まる「ベストオーディエンス賞」まで獲得してしまった。 キャリアの中でもノリにノっているこの時期に放たれるのが「Ringo star」というわけだ。

作家陣も過去最高の布陣。 AKB48のヒットソングの中でも、音楽通にまで評価が高い「ポニーテールとシュシュ」を制作した 多田慎也(作詞・作曲)、生田真心(編曲)の黄金タッグが実現。 2015年の「愛踊祭」からりんご娘を見ていたという多田は、 彼女たちの魅力が「都会のアイドルにはないピュアさ」であることに気付き、 その想いが「Ringo star」には強く反映されている。

「輝きたいの私 りんごのようにキラリ」

言葉にすれば純朴そのもののようなサビの歌詞も、切なく吹き抜けるメロディーと オートチューンをまとった上品なエレクトロサウンドでコーティングされることで、 酸味と甘味が絶妙なバランスで共存するりんごのような味わいを見せるのだ。 樋川代表の哲学がさらに強く反映された同曲のMVは、 「弘前への愛・感謝」をテーマにりんご娘の思い出の地を巡り撮影されたが、 ここで見ることのできるダンスパフォーマンスもこれまでとはレベルが段違いだ (余談だが、彩香いわく「過去最高に難しい」とのこと)。 BiSや私立恵比寿中学の振り付けで知られるミキティー本物氏が振り付け、 MV制作は水曜日のカンパネラのMVを手掛ける藤代雄一朗氏と地元制作班によるプロジェクトチームが担当した。

カップリングがこれまた対照的。 津軽弁で「(そう)だろう」を意味し、 2010年にも一度リリースされたこれ以上なくローカル色の強い代表曲「だびょん」の 現メンバーでの初録音バージョンが収録されている。 樋川代表が〝ご先祖からのトキメキの連鎖で今がある〟という壮大なテーマで作詞・作曲したこの曲と「Ringo star」とのギャップも、このシングルの聴きどころと言えそうだ。

そんなわけで長いキャリアの末に最高の春を迎えている2017年のりんご娘、 けれど地元のために活動するというスタンスは全くブレないりんご娘が、 首都圏や台湾など海外での活躍を経てどんな新しい景色を見せてくれるのか。 楽しみに胸を躍らせながら「Ringo star」を何度でもリピートしようではないか。

船越太郎

弘前市出身。地元の高校を卒業後、進学で上京。タワーレコードに入社し、ヒップホップ、R&B、ソウル、レゲエ、テクノ、ハウスなどの売場を担当後、ブルース/カントリーのバイヤーを経て、国内のインディーをジャンル全般に渡りバイイング。その後、自社のeコマースサイト内の音楽ニュース編集に携わり、音楽レビューサイト「Mikiki」のローンチ・運営にも編集者兼ライターとして関わる。2015年にUターン。現在は地元新聞社の陸奥新報社に記者として在籍中。